6歳からの子育て、それはすなわち小学校教育である。必ずしも地域の小学校に通わせなくていいという選択肢を持つ親にとって伊那市は魅力的かもしれない。
子ども自身の問いから学習を始めること、教科を横断して学ぶこと、地域や自然、実物と関わること、答えのない課題に取り組むこと、点数だけで成長を評価しないこと、教師は教える人ではなく、共に考える人でもあるという考え方。今でこそ、「主体的・対話的で深い学び」「探究」「教科横断的な学習」と重なるが、なにしろこれをおよそ70年前から実践してきている小学校が伊那にあるのだから。
伊那小学校は、公立でありながら、長年本格的な探究型教育を継続してきた。「正解を覚える教育」より、自分で考え、決め、動く力を育てることを重視する。通知表は1956年(昭和31年)に廃止している。学校自身も「子どもの求めや願い」を起点に、総合学習・総合活動を教育課程の中心に置くと説明している。しかも、私立校やフリースクールではなく、地域の公立小学校として実践しているのである。
実践している「公開学習指導研究会」は実際の授業を公開し、参加者と一緒によりよい教育のあり方を考える場づくりで、学校紹介や教育移住希望者向けの見学会や授業公開とは目的が異なる。「総合学習・総合活動」を中心に、子どもがどのように対象と関わり、自ら考え、成長していくのかを検証し、授業を見せて終わるだけのものではない。外部の教育関係者からフィードバックを得て、自身の教育を改善し、参加者の意見を今後の教育活動に生かすと学校は説明している。さらに、伊那小の実践を材料に、探究学習、子ども主体の授業、インクルーシブ教育、特色ある学校づくりを広く共有することを目的とし、「公」として誰に対してもオープンであることを共同研究として見せている。通知票の数値評価ではなく、「総合学習・総合活動」に重きを置くその姿勢と実践によって「なぜ通知表を廃止しているのか」の意味が伝わってくるようだ。
伊那市は現在、かなり明確に教育移住を受け入れる仕組みを作っている。移住・定住コーディネーターと呼ばれる方々が窓口となり、希望者の仕事や住居、家族状況を聞くところから始まり、専任の「教育移住支援員」が学校との調整を行う。伊那小だけを特別にするわけではなく、市内の小中学校・保育園を1日最大3校まで案内している。教育委員会は、伊那小の独自カリキュラム、教職員研修、公開研究会を制度面で支えてはいるが、伊那小だけに希望が集中しないよう、フェアなバランスを保つ。
「子どもは、自ら求め、自ら決め出し、自ら動き出す力を持っている存在である。」と伊那小学校は、学校の特色を伝えている。
未来は常に過去からやってくる。




